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2011年5月

2011年5月23日 (月)

絶対湿度(absolutery humidity)とインフルエンザの流行

絶対湿度(absolutely humidity)とインフルエンザの流行

Time-stamp: "Mon Jun 27 17:07:35 JST 2011"

単位体積1m3の空気が含むことのできる飽和水蒸気量は通常の 温度範囲で次のようである。気体の状態は圧力、体積、絶対温度で決まる。そ のなかの圧力を1013.25hPaに固定した場合の飽和水蒸気量になる。つまり単位 体積とは言っても密閉した容器内の空気を対象としているのではない。風の吹 かないところに置かれた一辺1メートルの立方体の金網で出来た箱で考えてい る。圧力を1気圧の一定値に保つということは温度に対して空気の体積が自由 に膨張・収縮できる環境である。その単位体積の空気が含む最大水蒸気量が飽 和水蒸気量になる。

建築・空調(空気調和)の世界で扱う建物内の空間(部屋)は気密とはいえ絶対 の閉鎖空間ではない。多い少ないはあるだろうが部屋内の空気と外気は必ら ず出入りしている。人間が暮らすのであれば人の出入り口が無ければならな い。そうでなくても換気口(吸気、排気)はある。その他に目には見えない無 数の空気孔があるだろう。一見したところ密閉されているように見えても空 気は出入り出来る。なにしろ空気クンの頭はとても小さいのであらゆる隙間 をみつけて内部へ潜り込むことができる。

建て付けが良かろうが悪かろうが戸外に置いた気圧計と部屋の中の気圧計 の指示に差があることはない。つまり空気は自由に部屋から出入りしている。 もし完全密閉の部屋で電熱器を付けたなら室温の上昇に連れて気圧が上がるは ずである。しかし普通に人間が暮らす部屋での飽和水蒸気量を大きく変えるも のではない。

空気(理想気体)の温度(temperature)、体積(volume)、圧力(pressure)をT, V, pとするときボイルシャルルの法則によりpV/T=一定値(なおTには絶対温度 を使う) が成り立つ。空気の状態を表す三つの変数p, v, Tのうち圧力を1気圧 に固定した。さらに絶対温度を指定するとボイルシャルルの法則により体積が 決まり空気の状態が定まる。湿り気を含む空気に含まれる最大水蒸気量は圧力 を固定すると温度だけで決まる。その単位として単位体積または単位重量あた りの湿り空気に含まれる水蒸気量を使うことにする。開放空間の空気の状態は 体積を指定すれば温度だけで決まる。単位体積当たりの飽和水蒸気量は次のよ うになる。

温度飽和水蒸気量
g/m3
04.9
56.8
109.4
1512.8
2017.3
2523.0
3030.4
3539.6
4051.1
at 1013.25hPa

粗っぽくいうと人が生活する通常の環境における飽和水蒸気量は1℃あたり 1g/m3見当になる。30℃でほぼ30g/m3で温度数とグラ ム数が同じになる。実際の温度対飽和水蒸気量のグラフは30℃- 30g/m3を通る弓なりな曲線(指数関数)になり、30℃から10℃の間 では温度数より少しずつ小さい。5℃から0℃においては減少が緩やかになり温 度数より大きめになる。0℃の飽和水蒸気量は約5g/m3である 。30℃を超えると急激に上昇して早くも35℃で40g/m3に近付く。

気温0℃で湿度が80%とする。湿度80%とは気温0℃の空気の飽和水蒸気量の 80%を含んでいることを意味する。したがってそのときの絶対湿度(1立米の大 気の含有水蒸気量)は4.9×80%=3.9g/m3になる。大気中の水蒸気 量は晴れから雨になるとか雨が上がって晴れてくるなどの天気の変わり目でな いと殆ど変化しない。水蒸気の供給もないし消費もない。気温が10℃に上がっ ても水蒸気量が3.9g/m3のままであるとする。10℃の飽和水蒸気量 は9.4g/m3 であるために相対湿度は3.9/9.4=41%になる。

(注)実際に冬の気温0℃で湿度80%ということはまずない。相対湿度が当てに ならないことを強調する例として取り上げている。

ここで気温の変動幅を10℃としたのは一日の最高気温と最低気温の差が凡そ 8℃から10℃くらいであることにもとづいている。理科年表から私の住んで いる岡山市のデータを抜き出すと次になる。

岡山の日最高・最低気温の月別平年値
最高気温最低気温月較差
18.91.07.9
29.41.08.4
312.93.89.1
419.29.39.9
524.114.110.0
627.219.18.1
731.223.57.7
832.124.27.9
927.720.07.7
1022.113.48.7
1116.57.88.7
1211.42.88.6
AV20.211.78.5

岡山市の一日の最高気温と最低気温の差は8~10℃くらいに収まる。安定し た天気での水蒸気量は一日を通して1g/m3以内くらいの変動になる。 水蒸気量一定のときの相対湿度が上記にように41%から80%まで変動することは あり得る。

単位体積あたりの水蒸気量が変わらないのに気温によって相対湿度が 大きく変動するのは各温度において100%湿度となる飽和水蒸気量が違うため である。温度が高いほどに飽和水蒸気量が大きい。しかもその変化は直線的 ではなく弓なりの指数関数的な増加になる。単に湿度何パーセントというだ けでは意味をなさない。気温と相対湿度を同時に指定しなければ湿り具合を 表したことにならない。湿度の比較が意味を持つのはそれら両方における温 度が同じ場合に限られる。

相対湿度にはその温度での飽和水蒸気量という温度に関係する数量がその裏 に隠れているけれども、湿度と同時に温度を明記しなければ単位体積当りの 水蒸気量が分からない。温度が変化する環境のもとで空気の湿り具合を表す には気温と相対湿度の両方を記述する必要がある。

空気の湿り具合と洗濯物の乾燥具合を調べることを考える。通常の天日乾燥 において午前9時と午後3時の気温にかなりの差がある。そのため相対湿度に よる空気の湿り具合と洗濯物の乾燥具合を比べても有用なデータは得られな い。温度を併記したとしても二つの数量と何か別の乾燥割合を表す数量との 関係を見抜くことは難しい。

そこで温度と相対湿度を統合した数値として絶対湿度を使うことにする。一 対一の数値の対応からそれらの関係を見るのは簡単である。ごく普通の二次 元(平面)グラフで済む。相対湿度を使うと温度、相対湿度、目的の観測量の 三次元(立体)グラフになり表現も解析も格段に難しくなる。

絶対湿度にはそのときの温度に依存するもの(飽和水蒸気量)が入らない。単 純に単位体積(1立米)が含む水蒸気のグラム数を表すものである。

洗濯物が乾燥するメカニズムは次のようである。(1)洗濯物の表面に接して いる空気が乾燥していると衣類に含まれている水分が蒸発して衣類の表面に 水蒸気の層をつくる。衣類の水分が蒸発して出来た湿度の高い空気の層が薄 皮のように衣類の表面にまとわり付いた状態になる。(2)風が吹くと衣類に へばり付いた薄皮状の湿度の高い空気層が吹き飛ばされて周辺の湿度の低い 空気と置き換わる。(3)衣類の内部の水分が再び表面に移動して新しい水蒸 気の層をつくる。そしてそれが風で吹き飛ばされるということを繰り返す。

水は湿ったところから乾いたところへ移動(浸透)しようとする。それと同じ ように湿度(水蒸気)も高い(多い)ほうから低い(少ない)ほうへ移動しようと する。洗濯物が乾くには干し場所の湿度が低いことと適度な風を必要とす る。そういえば冬の漁港近くで干物をメリーゴーランドのように回転させて いるのを見る。あれは干物が猫に狙われるのを防いでいるのではなく風に当 てることで早く乾かそうとしている。コインランドリーの回転式乾燥機も風 効果(しかも熱風)だろう。

空気が乾燥するとインフルエンザが流行するといわれる。生物にとって乾燥 は過酷な環境であるからむしろウィルスが住みにくい気がする。そのほうが 人間には却って好都合なのではと誤解しかける。侵入者に対して過酷であれ ばそれを迎え打つ側(人体)にも厳しい環境と思う。生き物(微生物、ウィル ス、最菌?)どうしの戦いであるから襲撃される側の体力が侵入者に勝って なければ退治できない。人間側に有利な湿度環境に近付けることが必要にな る。ウィルスと人間はどちらも乾燥に弱くて、両者が綱引きをするとき 11g/m3なら人間が勝てるのだと誤解する。

実はインフルエンザウィルスは乾燥に滅法強くて湿潤に弱いというのが真相 と知る。ウィルスは湿潤に弱く人間が湿潤に強い。湿潤であれば人間が圧倒 的に有利となる。どちらがより乾燥に耐えられるかのサバイバルゲームでは ないらしい。

「教科書的には, 「インフルエンザウイルスは高温多湿に弱く, 低温乾燥に 強い, その逆がポリオウイルスで, 高温多湿を好み, 低温乾燥に弱い」とさ れています。これはそれぞれのウイルスの流行する季節から予想されること です。しかし, “乾燥”という言葉はいろいろに理解できます。真空凍結 “乾燥”された状態にあるウイルスは極めて安定であり, 半永久的に保存で きる状態ともみなされます。インフルエンザウイルスのエーロゾル感染で は, 直径150μm未満の水滴が患者から発生し, 2~3秒で水分が蒸発してウイ ルスを含む“乾燥した核”が形成されます。この核の中でウイルスは比較的 安定です。直径5μm以上の比較的大きな核が咽頭粘膜に付着して感染が成立 します。(琉球大学・山根 誠久)」

医師によると絶対湿度(外気1立米に含まれる水蒸気量)が 11g/m3を下回るとインフルエンザの流行が始まるという。岡山市 のデータからすると11g/m3 をクリアしそうなのは5月から10月ま でになる。月別平年値を使うのは粗っぽいかもしれないが傾向は分かる。寒い うちはどうにもならない。屋外に出ないわけにはいかないのだから。

ところで冒頭にある温度別飽和水蒸気量の表によると温度10℃における飽 和水蒸気量は9.4g/m3である。インフルエンザ流行の目安となる 11g/m3となるのは温度13℃くらいになる。飽和水蒸気量とはその 温度における100%の相対湿度に相当する。つまり温度13℃を下回る屋外に出た らインフルエンザウィルスに襲われることは避けられない。

「気象とインフルエンザの流行との相関関係を長年調べた結果、日本では絶 対湿度(1立方メーターの空気中の水蒸気の量)が11g以下でインフルエ ンザが始まることがわかった。絶対湿度7g以下で流行が大きくなってよ い。」

理科年表にある岡山市の気温の月別平年値、相対湿度の月別平年値、海面気 圧の月別平年値から絶対湿度を求めると次のようになる。気圧はほとんど影 響しない。気温と湿度だけから絶対湿度を求めても問題ない。

岡山市(1971年から2000年までの平均値)
気温湿度海面気圧絶対湿度
%hPag/m3
14.8661020.44.44
25.1641019.44.39
38.4631018.35.36
414.3621015.47.64
519.0641012.310.46
622.9711008.714.56
726.9741008.419.01
827.9711009.019.27
923.7731012.315.67
1017.6691017.510.38
1112.1691020.77.42
127.0681021.55.29
AV15.8681015.39.18

これを見ると5月から10月までが11g/m3をクリアしている。そ れ以外の時期にはインフルエンザが流行する可能性がある。気温10℃の飽和水 蒸気量は9.4g/m3である。つまり気温10℃では100%湿度でも 11g/m3に届かない。この時点で既にアウトである。冬の屋外では インフルエンザウィルスが元気に飛び回っているだろう。

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